「ビジネスφ」平成10年春号 (1998年4月)


企業と情報化

コンピュータシステムがうまくいっていない理由(わけ)

 

システムコンサルタンツグループ 八島クラスター

主任システムコンサルタント 八島 治

 

平成9年版中小企業白書で中小企業の情報化の段階をみてみると、全企業のうちコンピュータ未導入の企業は3割程度、初期導入段階の企業は2割程度存在している。また、初期導入段階の企業のうち、コンピュータの稼動状況が「あまりうまく稼動していない」「ほとんど稼動していない」と答えた企業は双方合わせて6割以上に達している。

さらに、情報化に必要な外部支援として、「自社にどのような情報化が必要なのかのアドバイス」「プログラムの開発・改良」をあげる中小企業が目立っている。

情報化に対する重要性は認識しているものの、実際には円滑に運用できない中小企業が多いようである。なぜそうなのか、本質的な理由(わけ)を探ってみたい。

 

■「うまくいっていない」の意味

 『うまくいっていない』というこの語句は、いろんな所で安易に使用されている。 「どうだい? うまくいっているかい?」 「なんでうまくできないんだ?」 「もっと、うまくやれ!」 企業を尋ねた時によく耳にする言葉がある。 「ウチのコンピュータシステムはうまくいっていないんです」 「うまい方法はないものでしょうか?」 そこで「どこがどのように『うまく』いっていないのですか?」と質問すると、経営者は明確な返答ができずに、となりにシステム責任者を同席させて話をふる。そして彼の説明に首を大きく縦に振りながら、「~ということなんです。」で締めくくる。 『うまく…』この言葉はとても厄介なものに思えてならない。分からない人に何か分かったように思わせ、一人歩きをして、最後にはとんでもない混乱(誤解)を引き起こすのである。 なぜか? この言葉には具体的説明がほとんど伴わず、ひと言だけで言い表され、受け手は自分の世界で勝手にその意味(内容)を作り上げていくからである。このやりとりの中には「真実」がない。業務分析をすると「事実」は当初の説明/問題点と大きく異なる。これは人間の「主観」が「事実」を歪めていることに他ならない。会社の全員が「問題」だと認識しているというのは理屈では存在しても、現実的にはないといってもよい。あくまで問題の中心は「自分」であり、自分が困らなければどうでも良いのだ。 ということは、うまくいっていないのは『誰にとってそうなのか』が重要なポイントになってくる。現場にとって良くても経営者にはそうでないとか、その逆も存在する。そのあたりを曖昧にしたまま、ただ「良い」とか「悪い」とかを性急に結論付けている傾向が強い。

 

■「うまくいっていない」の所在

 本当にコンピュータシステムが良くないのか? 甚だ疑問である。なぜかコンピュータシステムはよく「悪役」にされる。そうしておけば、誰も傷つけることなく丸く納まるからである。では、一体誰がこれを作らせたのか。たとえば、自分の家は大工さんが勝手に建てたのか。ましてや住みだしてから大工さんの「設計」が悪いと言えるだろうか。 ここへきて経営者はすっかり一流のシステム評論家に変身する。他の業界では有りえないことがこの業界では平然と存在する。 全て悪いのはこのコンピュータシステムを作った『システムエンジニア』であるとすれば正直なところ「それはあんまり」である。どうしようもないコンピュータシステムはめったになく、一部の機能に支障が出て、それが「デフォルメ」されて流布されているのが実態である。「経営者の求めているものがよく分からないシステム責任者」が「システムの現状を知らない経営者」に状況説明するとほとんどがこの形にあてはまる。 また、システム構築にあたって自らの意見・構想(イメージ)をより具体的に作り手に対して伝えているだろうか。そもそもこの根本的な事がなされていなければ、その本人がシステムを評価することはできない。問題用紙を差し出さずして解答を求めればその答えが「良い」「悪い」と言えないのである。そうでないにしても「良い」「悪い」はひと言で表現するものではなく、ここが「良い」がここは「悪い」と具体的に評価しなければならない。これをしなければ、いつまでたってもシステムは改善できない。

 

■問題点を克明にする“6W3H”

 では具体的にどう表現すべきなのか? 筆者の経験から得たものであり学術的裏付けはないが、事象・問題点を6W3Hで表現することを勧めたい。 ・WHERE(何処の) ・WHO(誰が) ・WHOM(誰に対して) ・WHY(何の為に) ・WHAT(何を) ・WHEN(何時迄に) ・HOW MANY(どれだけ) ・HOW MUCH(幾ら掛けて) ・HOW TO(どうなっている/なっていない) 上記にしたがって内容を埋めていくと、ほとんどの人は途中でペンをとめる。ひと言で表現できた『うまくいっていない』は一体、6W3Hのどの箇所なのか分からなくなる。そうこうしているうちに、本当の問題の根源は「コンピュータシステムそのもの」ではないことに気付きだす。 組織形態・業務の流れ・現場担当者の個性/能力・企業風土・人間関係(あつれき)等々、これら組織・人間の本質的な事象を棚に上げてコンピュータシステムを議論・評価しているのがほとんどである。「立場が変われば意見が変わる」「総論賛成/各論反対」「建前と本音」「理論と実践」など矛盾した環境の中で運用されているコンピュータシステムは、どんな先端技術を駆使したコンピュータシステムであっても先が見えており、使用されなくなるのは時間の問題である。  

 

■経営者自身がシステムの「育ての親」に

 コンピュータシステムには『開発』『運用』『改良(メンテ)』という3つの側面がある。 「うまくいかない理由(わけ)の全ては『開発』にあり、それを仕切った業者に全ての責任がある。見積の甘さ・計画の甘さ・機能の乏しさ等」というような、このもっともらしい結論がいろいろなマスコミ記事で目に付く。コンピュータシステムは生き物であり、求められる機能も時と共に変化していく。昨日は良かったけれど今日からは駄目とはよくある話である。 人生経験が豊富な経営者は、世の中は「無常」と周りの人々に説いていながら、ことコンピュータシステムに関しては、硬直的考え方になりやすい。何もかも理屈は同じであるのに。 『うまくいかない』理由(わけ)の所在の多くは、確定した機能(設計)を前提にした『開発』時よりも、時と共に求めれれる機能が変化する『運用』時と、必要となった機能を追加、不要となった機能を削除する『改良(メンテ)』時に存在している。 この両者は、システムの本番稼動開始から発生するが、それはまさにコンピュータシステムの「はじまり」でもある。コンピュータシステムは、その運用時にどう育てていくかが一番重要なポイントであり、その育て方がコンピュータシステムの将来を握る。そして、その「育ての親」となるのは経営者自身である。 「うまくいかないコンピュータシステム」は、生まれた時からそうなのではない。『運用』時の経営者不在・無関心さがそうさせたのであり、「育ち(環境)」が一番重要なポイントになる。

 

■システムが「うまくいく」ためには

 こうしてみると、マスコミでいろいろ難しく扱われているこのテーマもけっして特別な代物ではない。中小企業の情報化における課題とその対処の原点は「経営者自らが『何が欲しいのか』『どうしたいのか』を主張できること」に行き着くのである。 繰り返しになるが、あなた任せにするシステム構築、改良そのものが、「うまくいかないコンピュータシステム」の根本的な原因であり、その原因は経営者自身が蒔いている、ということに早く気付かなければならない。これは、経営者自身のコンピュータに関する技術・知識の有無が問題ではなく「自社が抱える問題に対して真正面からぶつかる/逃げない」「分からないことを曖昧にしない」などの姿勢が問われていることになる。 筆者の望みは、「経営者の経営者による経営者のためのシステムを作ること」に他ならないのである。

 

● 富士総合研究所

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